ごあいさつ

 松山政夫前センター長の後を受け、平成27年4月1日付けで水素同位体科学研究センター長を拝命しました阿部孝之です。一言ご挨拶申し上げます。

 現在かつて経験したことがない程、地球規模で環境変化が起ころうとしています。これは20世紀前半の産業革命以来、産業・経済の急発展に伴い、石炭、石油及び天然ガス等の化石燃料の消費が加速的に増加したことで、排出二酸化炭素量の急増が原因であると言われています。今日では気温上昇、酸性雨、更にはゲリラ豪雨やスーパー台風のような異常気象が世界中いたるところで顕在化しており、二酸化炭素(CO2)排出規制は国際的枠組みで克服すべき緊急課題と位置づけられています。

 我が国においては、京都議定書以来、CO2排出規制の観点から原子力発電を基盤電力としたエネルギー政策を推進してきました。しかし2011年3月の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故は原子力発電のリスクを国民が直視することとなり、4年経過した今でも原子炉の再稼働や増設は容易ではありません。このようにエネルギーを取り巻く環境は混沌とし、各電力のエネルギー比率も定まっていません。しかし、ある識者が「エネルギーを握られるとは、国の生殺与奪の権を握られるに等しい」と述べているように、エネルギーは覇権的要素が強いため、自国のエネルギーは自国で賄う必要があります。既に世界各国では脱化石エネルギーの研究開発を急ピッチで進めており、日本も早急な対応が望まれています。

 当センターでは、上記課題の解決策として水素同位体(軽水素、重水素及び三重水素 (トリチウム))のエネルギー利用に関わる基礎的・応用的研究を行っています。例えば、軽水素(H2)は酸素と反応することでエネルギー(熱、電気)を放出して水を生成します。またこの逆反応により、水からH2を得ることができ、H2と水の資源循環による持続可能なエネルギーシステムを構築できます。一方、重水素(D)及びトリチウム(T)は21世紀の高密度エネルギー源として注目されている核融合炉の燃料として使用されます。 即ち、水素同位体はクリーンな次世代エネルギーシステムを構築するためのキーマテリアルであると言える訳です。

Hydrogen Energy System


--Hydrogen Energy System--

水素同位体科学研究センターは
再生可能なエネルギー源としての
水素同位体に注目しています。
水素の輪廻:水から生まれて水に還る


 これらのシステムを具現化するために、当センターでは、国内外の研究機関や民間等との連携を積極的に活用し、水素同位体(H, D, T)を安全かつ効率的に利用するための基礎研究及び要素技術の研究開発を進めています。また大学に属するセンターとして学部・大学院教育にも注力しており、水素エネルギーシステムを担う次世代のリーダー育成・輩出に努めています。

 今後も更に質の高い研究・教育に向け様々な努力を続けて行く所存ですので、皆様の一層のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

水素同位体科学研究センター
  第8代センター長
          阿部 孝之