水素エネルギー材料研究

メインの担当スタッフ: 
阿部 孝之 赤丸 悟士 萩原 英久

1.機能性微粒子材料の高性能化

工業製品や日用品など、多くの分野で利用されている機能性微粒子材料は、近年、用途が拡大しており、それに伴い、更なる高性能化が求められています。 「機能性微粒子材料の高性能化」を成し遂げるためには、性能に直結する「微粒子表面のデザイン」が重要です。この点に関し、水素同位体科学研究センターで開発したプラズマ微粒子表面修飾・改質法 (多角バレルスパッタリング法・多角バレルプラズマ化学蒸着法・多角バレルプラズマ表面改質法)は表面修飾・改質をナノレベルで制御でき、世界に先駆けて微粒子表面のデザインを可能にしました。

これらの技術を用いた微粒子表面修飾・改質例を下図に示します。本手法は種々の物質(金属、カーボン材料、金属酸化物等)による微粒子表面の均一な薄膜修飾が可能です。 また、修飾物の形状をナノ粒子にすれば、高活性な触媒(例えば、CO2の固定化に有益なCO2メタン化反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を低温化する Ru/TiO2触媒)を調製できます。さらに、微粒子表面をフッ化することにより、テフロンと同等の超撥水性(試料上に滴下した水滴の接触角:150℃以上)を汎用性ポリマーに付与することにも成功しています。 従って、各種プラズマ表面・修飾改質法は、触媒や電池材料、化粧品等、我々の身近に存在する様々な機能性微粒子材料の高性能化に有用です。

以上の表面修飾・改質装置を利用したナノレベル構造の制御さらには新規機能性材料の開拓を通して、センターでは水素エネルギー社会実現のための様々な課題 (例えば高効率な水素製造を目指した光触媒の高性能化、貴金属を用いない水素透過材料の探索、水素検知材料の開発)に取り組んでいます。

2.人工光合成型光触媒による水分解

太陽光は紫外・可視・赤外光を含む連続光であり、広範囲の波長の光を吸収・利用することがエネルギー変換効率を向上させる鍵になります。この研究では、無機半導体光触媒の表面を強い可視光吸収を示す 金属錯体(ポルフィリン、フタロシアニン等)や有機色素で修飾し、光吸収量を増大させることで、変換効率の向上に取り組んでいます。また、光触媒の高活性化には光生成した電子と正孔の再結合による消失を抑制することも重要です。 この触媒では光合成の明反応と同じ電荷移動機構をとることで無機半導体中での電荷の再結合が抑制されており、水の光分解活性が向上する要因になっています。 さらに、貴金属や金属酸化物微粒子による表面修飾によって表面の反応性や選択性を向上させることで、太陽光エネルギーの高効率変換が可能な光触媒の開発を目指しています。

3.光―熱化学ハイブリッド水分解プロセスに関する研究

ヨウ素と硫黄を利用する熱化学水分解法(ISプロセス)は、ヨウ化水素分解反応、硫酸分解反応、ブンゼン反応の3つの化学反応で構成されている水分解法であり、水素を低コストに製造する方法として実用化が期待されています。 特に近年では、集光太陽光を熱源としたソーラーISプロセスによる水素製造の研究が精力的に行われています。当センターでは、太陽光に含まれる紫外から可視光のエネルギーでヨウ化水素を光分解し、 赤外光のエネルギーを熱にして硫酸を分解する「光-熱化学ハイブリッド水素製造プロセス」の開発に取り組んでおり、高い活性と耐久性を有する触媒材料について研究しています