トリチウム理工学研究

メインの担当スタッフ: 
波多野 雄治 原 正憲

核融合炉を運転する際には、燃料としてのトリチウムを安全に取り扱う必要があります。また、寿命を終えた核融合炉を処分する際や、万一の事故の際にも安全を十分に確保する必要があります。 このような観点から、当センターではトリチウムの挙動を安全に制御するための技術、および、どこに、どれだけのトリチウムが存在するのか正確に定量評価するための計測技術の開発研究を行っています。

1. トリチウム計測技術の開発研究

トリチウムから放出されるβ線およびβ線により誘起されるX線や熱を検出することで、気体中・液体中・固体の表面および内部のトリチウム量を高精度に測定する技術の開発研究を進めています。 特にβ線誘起X線計測法の開発による特許取得や、世界でもトップレベルの感度を誇る熱量計(β線からの熱を測定)の開発など、当センターの特色ある研究は国内外から高い評価を得ています。

2. 材料中のトリチウム挙動に関する研究

通常の運転時および事故時における核融合炉システムからのトリチウム放出を防止するため、核融合炉材料中のトリチウムの蓄積や透過漏えいを予測し、かつ制御するための研究を行っています。高温・プラズマへ照射・中性子照射など、核融合炉特有の環境に置かれた材料中のトリチウムを含む水素同位体の蓄積や透過を上述の計測技術を駆使して調べています。国内共同研究および国際協力(日米、日欧)を活発に実施しています。

図2 大型核融合実験装置JETのダイバータ領域におけるトリチウム分布をイメージングプレートで測定した結果。赤~黄~緑がトリチウム濃度が高い領域を示し、青が低い領域を示しています。

3. トリチウムを利用した水素イメージング

電子を一つしか持たず電磁波や粒子と相互作用しにくい水素は、固体中で最も計測しにくい元素のひとつです。しかし、トリチウムは自らβ線を放出してくれますので、トリチウムを使えば容易に水素の分布をイメージングすることができます。例えば、水素エネルギー材料や自動車用鋼板など一般の材料では、水素が進入することにより壊れやすくなる水素脆化と呼ばれる現象がしばしば問題となりますが、イメージングにより水素の進入経路が明らかになれば対策をたてることができます。このような核融合以外における水素に関わる問題の解決へ向けて、当センターで開発したトリチウム計測技術・材料分析技術を応用した研究を進めています。

図3 トリチウムを用いて引っ張り試験前後のSUS304ステンレス鋼中の水素同位体分布を可視化した例。加工により形成された欠陥に水素がトラップされていることがわかります。

4. トリチウムを貯蔵・回収に関する研究

核融合炉ではトリチウムが炉内に供給され,炉内より未燃焼のトリチウムが排出されます.このため,トリチウムを安全に貯蔵し,排ガス中よりトリチウムを回収することが不可欠です.事故時においても安全に貯蔵する金属ゲッターに関する研究,排出ガス中よりトリチウムを回収する機能材料に関する研究を行っています.さらに,金属ゲッター中に貯蔵されているトリチウム量を測定する技術に関する研究も行っています。